岩場におけるアクシデント


  1. ランナアウトと墜落

     ハーケンは抜けない、壁は崩れない人工壁やゲレンデのクライミングは別として、実際の岩場は、手掛かりや足場がかけたり、雨、雪、氷で手足を滑らしたりと、慎重に登っていても、突然墜落する。ハーケンは墜落の衝撃で抜けることもある。大きな岩が崩れることさえ珍しいことではない。実際には、このホールドは欠けるかもしれないからと慎重に確かめながら登り、適切にランナーを設けて十分なプロテクションを構成したつもりでも自然な岩場のプロテクションは不確実なことが多いし、破断して、それが事故になる。反対に、プロテクションをきちっと構成し、それが確実であれば、夏の岩場の墜落は、めったに致命傷には成らないかもしれない。しかし、冬は、岩壁にアイゼンが引っかかり、捻挫をしたり、骨折したりすることが多くなる。そしてこの捻挫や骨折がクライマーの行動力を奪い、搬出を困難にし、致命傷になることさえある。当然のことながら墜落にはリスクがある。自然の岩場では、墜落を、前提にするわけにはいかない。
     ロープを使う確保は、ビレイヤーだけで成立するのではない。ビレイヤーが出来ることは、確実なアンカーを作ることとトップの墜落を、ロープを用いて止めることである。途中にランナーのない落下率2の墜落は、傾斜の緩い雪の斜面でもない限り、墜落の衝撃は大きく止めることは出来ないように、墜落の衝撃を出来る限り小さくするには、トップが適切に途中にランナーを設け落下率を小さくすることとビレイヤーが制動確保をすることである。確保(プロテクション、防御体制)は、トップとビレイヤーの協働で成立する。しかも、トップがいかにプロテクションを構成するかにかかっていると言えよう。
    しかし、現実には、クラックなく、ハーケンやカムチョクが使えず、理論的に適切なところに確実なランナーを設置しがたいし、ランナーの確実性に乏しいことも多い。場合によってはアンカーさへ確実性に乏しい。したがって、適切にプロテクションを設定することができないので、次にランナーを取れるところまで確実にのぼる、このことをランナアウトという。ランナアウトは、緻密なクライミングを構成する能力とそれを確実にするセルフ・コントロールが必要である。ランナアウトはクライミングの確実性を読みきって決断することであり、墜落したら大事になることが分かりながら、「賭け」に出ることではない。こうしてみると、ランナアウトはある種の安全性を犠牲にするクライミングであり、望ましいことではないにもかかわらず、しかし、現実には、ランナアウトなしにはクライミングできない。手を抜いた訳ではないが、ほとんどの登攀にランナアウトがあったといえる。ランナアウトがスピードを高め、スピードが安全性を高めるという考え方もあるが、多くの場合、大丈夫だろうという手抜きのいいわけである。基本的には、プロテクションの構成を高めることが、スピードアップにつながるはずである。
    高度なフリークライミングは、完成されたプロテクションの上に構成される。それに対して、ゲレンデ化されない岩場では、常に、ランナアウトに伴う墜落のリスクを背負っていると言えよう。近年フリー化が盛んである。高度なフリークライミングが盛んになることは素晴らしいことだと思う。しかし、フリー化のために、完成されたプロテクションを、下降しながら、人工的手段を用いて構成することはどう考えたらいいだろうか。